本邦では、高齢化の進展により患者が多数の疾病を持ち、複数の医療機関をかかりつけとすることが一般的となっています。患者が複数の医療機関に掛かっている場合、施設間で適切な医療情報共有がなされなければ、
・医療情報を得るための余分な時間や労力の消費やそれによる診療の質の低下
・多重処方や重複検査による医療費の増大
・研究目的の臨床データの収集における臨床情報の断片化
など複数の問題が生じます。これらの諸問題を解決し円滑な地域包括ケアを実現するために、電子カルテに電子的に蓄えられた各医療機関の医療情報を電子的に共有することが必要であるという発想から、医療情報を施設間で電子的に共有するHealth Information Exchange(HIE)と一般的に呼ばれるシステムが世界各国で開発導入されてきました。HIEは本邦では地域医療情報連携ネットワーク(地連)やElectronic Health Record(EHR)とも呼ばれています。
過去20年にわたり本邦でも、通商産業省「先進的IT活用による医療を中心としたネットワーク化推進事業」や厚生労働省「地域医療再生計画」など公的な推進も後押しとなり、各地で数百の地連が構築されてきました。このうちの一部は、数万人単位の登録患者数のもと数十から数百の医療・介護施設をまたいで医療情報を共有するシステムとなっています。しかしながら日本のこれまでの研究や報告では、地連の登録患者数や参加医療機関数に関する報告は複数みられるものの、日常臨床でHIEが医療・介護・福祉従事者にどのように利用されているかに関する客観的な量的データが不足しており、「構築した地連がどのように活用されているか」という問いに答えることは困難でした。
本教室では、これまでの運用により蓄積されたアクセスログ記録を解析し、どのような機関のどのような職種で地連が利用され、どのような情報が閲覧されているかを研究しております。